2016年5月4日水曜日

鬼キャン

先日家族旅行に行った帰りの高速道路で、軽自動車を鬼キャンローダウンにしたクルマが連なって走っていました。
「ああ、集会があったのだなぁ」
と思っていましたが。
同好の士が集まるのは楽しいものですし、話も盛り上がります。
いや、大いに結構。

個人の趣味嗜好の問題なので、鬼キャンそのものに関しては「安全運転をしている」ならば、特にいうことはありません。
ローダウンも然りです。
「その状態」で、特に問題なく走れる速度で走行している分には、車検が通る状態になっているなら、ことさら他人が異を唱える必要はないでしょう。

ただまあ。
敢えて言わせてもらうと。
・遅い
 →まあ、そんなもんでしょう。スピード出すと危ないしね。
・変な蛇行すんな
 →車高が低いせいで、ギャップで腹をこするんですかね?
  突然蛇行するんでびっくりすることがあります。
・あぶねえから近づいてくんな
 →そのままです。
というくらいでしょうか。

クルマは荷重移動で曲がりますので、スムーズな荷重移動を行うためにサスペンションというシステムが組み込まれています。
このサスペンションの動作は、単純な上下運動だけではなく、クルマが傾いた時に、タイヤの接地面積が大きく変化しないように、タイヤが傾くようになっています。
#軽自動車やコンパクトカーなどの場合、リアサスペンションは簡易化されていて、左右のタイヤが連結されており、その連結された軸ごと傾くことで、接地面積を確保しているものもあります。左右独立させるよりも部品点数が少なく出来ること、結果安価軽量になること、などの理由で採用されており、単純に、その構造だから性能が劣っているとはいえないとは思いますが。ワタクシの好みではありませんけど。
具体的には、曲がるときに外側になるタイヤが傾くことによって、単なる上下運動では、タイヤの角が接地してしまうことになるため、それを避けるようにサスペンションアームを軸に円運動を描くように傾き、きちんとタイヤの接地面が道路に当たるように設計されています。
#もちろん、単純な円運動ではなく、ロアアーム、アッパーアーム、トルクロッドの組み合わせにより、それぞれのロール量で最適になるように複雑な角度の変化が行われます。
この動きをきちんと確保するために、自動車メーカーはいろいろな設計やテストを行い、そのクルマの重量や速度などから、ベストと思われるキャンバー角を算出し、速度域に合わせたロール量と、キャンバー変化を起こすようにしているわけですね。

安易なローダウン、そして鬼キャンは、このメーカーの努力を完全に無視しています。
メーカーが安全保障している範囲を大きく逸脱した改造を施しているわけです。

個人的な見解としては。
ローダウンは、サーキット走行を念頭に置いているならば、ぜひとも実施した方がいいでしょう。
車高を下げるということは、すなわち重心を下げるということであり、同一の速度であれば、ロール量を抑えることが出来ます。
ロール量を抑えることにより、キャンバー変化も抑えることが可能になり、サスペンション構造にまで手を加えることなく、接地面積を確保できることになります。
具体的にはグリップを確保できるため、コーナリングスピードを稼げます。
クルマは、グリップを超えた速度では曲がれません。
レース車両の車高が低いのは、極論すれば、グリップを稼ぐためにやっていることなわけです。
#まあ、なんで車高を下げるとグリップが上がるか、は説明すると長くなるし、そういう説明をしているサイトも多数あると思われるので、ここでは割愛しますが。説明できないわけではないですよーぅ、説明を省くだけですよーぅ

キャンバー角に関しては、ご自分のクルマを後ろから眺めていただけると解るかと思いますが、4輪独立懸架のクルマの場合、後輪には停止状態でも、若干キャンバー角が付いているものが少なくありません。
ワタクシのオデッセイもそうですし、カプチーノもそうです。
2度程度かな。よく見ないと解らないくらいに僅かにキャンバーが設定されています。
#前述のFFで軽またはコンパクトカーのようなサスペンションの場合には、キャンバー角はついていないことが多いですね。
この場合、リアに若干のトーインが付いていることもあります。
トー角とは、クルマを上から見た時に、タイヤが左右どちらかに傾いている角度のことで、タイヤの前側が傾いていて内側を向いている状態のことをトーインといい、逆をトーアウトといいます。
リアタイヤのトーインは、直進安定性に影響します。ちょっと考えてみてもらえば解ると思いますが、両側のタイヤが内側に傾いているということは、両方のタイヤがクルマを挟み込むような動きになります。
内側に押し出すような動き、と言った方がわかりやすいですか?
結果、何が起こるかというと、リアタイヤが左右から斜め内側に押し込むような動きになるため、自然とクルマは直進するようになります。
そりゃあ、両側から押さえつけられているわけですから、まっすぐ前に進むしかありませんよね。
通常の市販車は、このトーインがつけられていて、直進安定性を確保しています。
このとき、単純にトーインだけつけていると、実は効果が薄いのです。
より強く直進安定性を確保するためには、若干のキャンバー角、後ろから見てタイヤの上側が内側に傾いている状態(ネガキャンといいますが)と組み合わせた方が、より直進安定性が増すのです。
実験してもらえば簡単に解るかと思いますが。
そのため、タイヤが片減りしない程度にトーインとネガキャンが付けられているのですね。
なお、旋回性を取る場合には、トーインではなくトーアウトを付けている場合もあります。
これは、リアを意図的に外側に動かすようにすることで、ある意味、安定性を犠牲にして、曲がりやすくするためです。
クルマを曲げる上で重要なのは、フロントタイヤよりも、リアタイヤなので、そのようなセッティングもある、というところでしょうか。
市販車ではレアなんじゃないかと思いますけど。>トーアウト

とまあ、シロートのワタクシが解る範囲での話ではありますが、アライメントの基本はこんな感じで、メーカーは「誰でも安全に運転できる」かつ「速く走れる」ようにこの辺のアライメント設計をしているわけです。

以前、カプチーノのローダウンの話で書きましたが、カッコだけローダウンには意味がなく、車高を落とすなら、きちんと車高を落とすことを前提としたショックとスプリングを使う必要があります。
サスペンションの働きには伸び側と縮み側があり、基本、縮み側が重視されますが、伸び側、コーナー内側の動きも重要な意味を持つからです。
伸び側がきちんと仕事をしてくれないと、インリフトという状態になり、デフの種類によっては、コーナーでトラクションが抜けます。
トラクションが抜けるということは、加速できないということに他なりません。
コーナー出口で加速できないのです。
これではタイムに繋がりませんし、トラクションが抜けた状態というのはクルマは非常に不安定なので、危険なことこの上ありません。
#まあ、LSDとかインリフトしてもちゃんとトラクションがかかるデフもあるけど。

で、話を戻しますが。

個人の趣味嗜好なので、「かっこいい!」でやってるなら、ワタクシがいうことはなにもないのですが、鬼キャンも車高調を組んでないローダウンも、クルマにとっては、なにひとついいことはありません。
特に鬼キャンは、タイヤも片減りしますし、そもそも接地面積が確保できているかどうかすら定かではありません。
雨降ったら一発でスリップ、の可能性すらあります。
さらにいえば、サスペンションの形式依存になるのですが、極端なローダウンは、サスペンションが沈んだ状態で走っていることになるわけで、縮み側のストロークが確保できていない可能性もあり、この場合、乗心地も極端に悪化するのではないかと思いますし、ボディやサスペンションに対する路面からの攻撃性も高くなります。
乗ってる人にもクルマにも優しくない、ということになるのですが、まあ、そのひとの代で廃車にする前提なら、個人の趣味嗜好の範囲内なので、ワタクシが文句を言う筋合のものではありません。
ただ、こうした改造がなされたクルマがノーマルに戻されて中古市場に流れることもある、と考えると、購入時には、注意した方がいいかも知れませんね。
とはいえ、中古車屋でも、以前にどんな改造を施していたか、までは押えていないと思うので、ボディやサスペンションの部分までよく見て、歪みやクラックが入ってないかチェックする、という当たり前のことしか出来ないかも知れませんが。
ああ、そういう改造していると、サスペンションのアッパーマウントに手が入ってる可能性があるので、アッパーマウントをチェックするだけでも解るかも知れませんね。

ワタクシの考えと、理解は前述の通りなので、鬼キャンローダウンに関して言えば、ワタクシの理解の外にあります。
なんのためにやっているのか、まったく理解できません。
言い方は悪いですが「死にたいのだろうか?」とすら思ってしまいます。

ワタクシはクルマが好きなので、クルマでは死にたくありませんし、他人を殺したくもありません。
そのための努力は惜しまないつもりでいますが、それでも起きるのが事故です。
なのに、その事故の確率を上げるような改造はいかがなものか、と思うのですが、まあ、これはワタクシの趣味に合ってないから思うことなのかも知れませんね。

0 件のコメント:

コメントを投稿